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「予算がないんです」?予算はあります!

「予算がない」という理由は、営業という業務の中で最もよく受ける断り文句の一つであり、誤った情報でもあります。予算は確かに存在していますから、この理由を耳にしても信じてはいけません。この言葉の真の意味は、我々の製品やサービスのために予算を割く用意がないということです。 一体全体、なぜ予算を割り当ててもらえないのでしょうか。

問題は我々営業サイドにあるのです。先方の予算配分を変えるに足る価値を提供できていないためです。自分がバイヤーであっても同じではないでしょうか。もしある出費を持ちかけられ、提示された価格帯で十分な価値を得られると確信できなければ、その申し出を拒否するでしょう。ただ理由を直接伝えず、やんわりと「予算不足でして」と伝えるでしょう。

しかしそれはでまかせです。私の予算もまた皆さんの予算同様、スプレッドシート上のランダムな数字の集合です。 左側の列に給与、賃料、マーケティングといった項目が記載されています。同じ行の右側の当月欄に、項目に対応する数字が記入されています。

この数字の根拠はなんでしょうか?これは年初に12ヶ月分の支出を想定したものですが、実際にはある分野では予算を超過し、別の分野では下回っています。 充分な動機があれば費用は捻出できるものです。こちらのセルからそちらのセルへと予算を移すだけなのです。 ですから「本件の予算はありません」というのは、買い手の言い訳に過ぎません。

さて、それではどう対応すればよいのでしょうか。価値観の相違には複数の要因があります。先方のビジネスやニーズを十分に理解できず、誤った、あるいは脆弱な解決策を提案してしまったのかもしれません。説明に説得力が感じられていないというわけです。また営業説明の中で質問要素が不十分であったのかもしれませんし、相手が心を開いてすべてを話してくれていないかもしれません。

多くの場合、クライアントとの初回や2回目の会議に過ぎないか、または初回の営業電話であることを配慮する必要があります。あまりよく知らない人たちが現れ、映画に出てくる強面の刑事のように近づいてきて、あつかましく質問してくるわけです。 信頼関係が構築されていない相手には、社内の不都合な情報をさらしたくないでしょう。

あるいは、相手について理解していても、提示した解決策が彼らの心をつかめていないのかもしれません。この場合、相手の現在の状況と将来の目標にあまり差がないことが問題となっている可能性があります。 最近こんなことがありました。自分の詳しく説明した解決策が、ワクワクするようなメッセージとなって伝わらないのです。私が提案したソリューションが、どのように先方の業績を向上させるのかについて、十分な説明ができていなかったためでした。

後にその会議を振り返ってみて、私たちのソリューションを導入することで、先方の社内状況がどう変わり得るかを十分に言葉に尽くせていなかったと気付きました。社員がどのように変わるのか、本当に発奮して戦力となるのか、詳細に説明できていなかったのです。言ってみれば私は高度1万メートル高さから話をしていたようなもので、我々のもたらすことのできるポジティブな変化について、もっと地に足を付けた説明をする必要があったのです。クライアントは、当社の支援などなくても、自力で目的を果たせると感じたのでしょう。売り込みに失敗したのは、私の責任でした。

るいは、予算のタイミングの問題が障壁となっているかもしれません。私たちのカウンターパートは、先方の会社の窓のない地下室で電卓をたたいているような経理担当者に、予算の正当性を説明しなければならない立場にあります。年初に作成された神聖な予算案に含まれていない案件について、今変更を加えてほしいと要望を出さなければなりません。ここで私たちは工夫して協力する必要があります。経理部門に不信感を抱かせないような支払いのタイミングを探さなければなりません。支払いを月や会計年度により分割し、経理担当者の許可を得やすくしたり、サービスや製品を今すぐ提供するが支払いは後日とする、などの方法が考えられます。このような手段の通用しない国も多くありますが、日本では可能です(後日払いを約束しておいて実際には詐取されるような事例が考えにくいためです)。

この支払時期の件で、最近ひと悶着ありました。私の提案したソリューションは、クライアントの日本チームには好評でしたが、欧州の本社に大反対されました。それも無理のないことです。EUの通貨を日本円に換算すると、莫大な金額に感じられるのです。経済状況が全く異なっていますから、その代わり日本で現地雇用されるEUの現地スタッフたちは、在欧州の同レベルの職種と比較すると非常に高収入です。彼らはこのような現実を都合よく見落とし、巨額の資金を使うことに反対の意を示しました。

幸いにも日本法人のチーフが、予算の振り分け、つまりスプレッドシートでいうならばあるセルの数字を別のセルに移動させるというソリューションを考え、必要な金額を今年と来年の予算に組み入れることになりました。資金は最初からあったのです。しかし、それに対して十分な価値を提供できるかどうかが問題でした。このように、「予算がない」と言われても、時にはそれを覆すことも可能なのです。

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