セールスの構造はシンプル
ソート・リーダーシップ・シリーズ ビジネスプロ #9 (セールス)
セールスの仕事はシンプルに言えば、モノやサービスを金銭と交換することです。
販売価格が準備にかかるコストがどれほど上回るかが、企業の成功と存続を左右します。販売しているものに『かたち』があるならば、コストや利益率をみながら価格設定をすることが比較的簡単に行えます。ビジネスとして当然、『安く買って高く売る』が基本です。販売しているものが『サービス』の場合でも同じことが言えます。目に見えないという点で価格設定が困難ではありますが、『顧客にこちらが提供するものの価値を感じさせること』がセールスとして成功するための提案方法であるといえる点では変わりありません。
シンプルであるはずの提案が難しく感じるのはなぜでしょうか?
何が阻害となりえるのでしょうか。
価値とコストとの差を埋めるコミュニケーション方法を知らないとどうなるでしょうか。
ある講演会に参加した私は、30才位の営業マンの隣に座りました。開始までに時間があったので、その方にご挨拶をし、お話をしてみました。その方は今の会社で7年間セールスを担当していて経験が豊富ということでしたので、彼のセールス方法に興味を持った私は、『相手のニーズ把握で気を付けていることは何ですか?』と聞いてみました。
『ニーズ把握ですか?』彼は続けます。
『私は見込み客に連絡を取り、会う約束をし、約束の時間と場所に現れて固定文のサービス説明をして、見積もりを提出するだけだ』とおっしゃいました。
更にはミーティングの事前準備は、これまた固定の提案資料準備だけだと仰いました。
『私のセールススタイルは違うのか?』と質問をされた私は、長期的なビジネスパートナーになれるよう、関係性や信頼性を構築するよう心掛けているとお伝えしました。その為に、その方に合わせた特定の興味を刺激するような質問をして、顧客のニーズを引き出し、顧客情報を得る。そして 我が社が力になれるかどうかの可能性を相手に伝え、力になれるならどのような方法で力になれるか説明する。勿論、提案に対して先方が不明に感じる点、懸念、不安があり、拒否されることもありますが、そういった点を一つ一つ明確出来たときに発注をいただくことを依頼し、その後フォローアップしてサービスやモノを提供するようにしています。と伝えました。
どの顧客にも固定化された提案のみを行っていた彼は、相手のニーズに合う商品を提案し、その価値を売り込む営業方法 にお度悪露いていたようでした。話し方に指針とフォーマットを持っていれば、買い手と売り手双方が確認すべき工程の明確化がはるかに簡単になります。私は更に、『値段が高すぎる』と反対意見を受けた時どう対処しているのですか?と彼に聞いてみました。彼は少し考えて、『値引きをします』と答えられました。驚きを感じながら『どの程度値引きされるんですか?』と尋ねると、『20%までですかねぇ』と答えられました。彼のチームには他に4人のセールス担当者がいるということでしたが、全員が20%値引きをしていたら利益率はどうなってしまうのでしょう。折角頑張って発注を得ても、大した利益にはなりません。更には、一度値引きをした相手は、たとえ次回があったとしても高確率で値引きを要求してくるでしょう。
すぐに値引きをすることが、セールスのプロとして正しい行動だったのでしょうか?値引きをすることしか対処法はなかったのでしょうか?彼の答えは、『みんなそうしています。』でした。
では、値引きを提案する前に、彼は何をすべきだったのでしょうか。
彼は値段が高すぎると言われたときに、理由を尋ねるべきでした。価格に不満があるのか、それとも交渉か時間稼ぎをしようとしているのか、あるいは相手は価格理由を理解するだけの商品価値を見出しておらず、見当違いだと思っているのか。価格が高すぎるという意見には、価格うんぬんだけでなく様々な外的要素の影響が考えられます。予算配分の時期や、社内で競合するプロジェクトに関する懸念かもしれません。セールス担当者はそういった外的要素も把握する必要があります。
私も『値段が高すぎる』と言われた経験がありますが、『買いたいが売られたくない』理由をひとまとめにしたものだと解釈しています。理由を尋ねると、『予算の問題』という答えでした。営業のプロである以上、もっと踏み込んで『具体的にはどういった予算問題なのですか?』と尋ねるべきです。出てきた答えは『数字がその四半期の当社の予算配分を超えているからです。』
ということは、結局のところ値段は高すぎるわけではありません。ある四半期に全額支払うのであれば高すぎますが、四半期数回にまたがる分割払いなら購入は可能です。もし、最初の時点で20%の値引きで対応していたら、このことを知るよしはありませんでした。値引きしか対処法を知らない場合、顧客に四半期にまたがる分割払いを提案する考えすら起きないでしょう。利益率を下げて、折角自分がかける時間の費用対効果を下げるよりは分割払いの方がいいですよね。
この物語の教訓は、セールスパーソンの提案方法を改めてみてみる必要性を示しています。経験の長さと深さは必ずしも比例するとは限りません。セールスにはプロセスは本で読んだ、セミナーで聞いた。知識はあるから実行できる、と考えるのも危険です。知識がスキルに変換できてこそ、初めて実用的なセールスプロセスになるのです。
Dr. Greg Story
President of Dale Carnegie Tokyo Japan