買い手から真実を引き出す
時間をかけて信頼を築き、本当の状況を把握する
職業としての営業活動には、探偵のスキルが求められます。情報が存在しないこともあれば、情報が誤っていたり不完全、バリューが低かったりする場合があり、実際の商品について説明できる程度に内容を探る必要があるからです。買い手は私たちが必要とするものを持っていますが、私たちも買い手が必要とするものを持っていればなお理想的です。まずは探している物を手探りで探す段階を経て、真実に迫っていきます。私たちが提供するものが、買い手とってのソリューションではないことがわかると、そのことが明らかになるまでに多くの貴重な時間が失われてしまいます。テーブルの上にすばやく本当の事実を並べる技術を高めることが必要です。
問題は買い手を選ぶところから始まります。 営業担当者は、見込み客と会話を始めることに必死な余り、注意信号をことごとく見過ごしがちです。現代のビジネスでは、不在の買い手から折り返し電話が来ることはありません。送信した電子メールは存在しなかったフィクションのようなものです。見込み客となぜ連絡が取れないのかと悩むことに時間が費やされます 。
このため、いい加減なセールスファネル(見込み客の絞り込み)をし、期日が迫るにつれ緊張してきます。約束がないよりは約束を取り付けた方がいい。すると営業担当者に、買い手をなんとか説得して 販売にこぎつけられるのではないかという期待が生まれます。買い手が、販売対象として適切かどうか審査基準に照らし合わせると、基準には引っかからないかもしれません。始まる前から取引の可能性がなくなりますから、そんな考えは受け入れられません。とりあえずは相手に会うことにし、販売に至らない可能性については後で心配することにします。
買い手にならない何人もの人を相手にするのと、1人の確実な買い手とどちらがよいですか?もちろん、買い手と売り手の折り合いがつかず、それぞれの1日を無駄にするよりは、適正審査に合格した1人の買い手を確保する方が時間の使い方としてはよいに決まっています。踏み込んだ会話が必要かどうかを判断する、これという質問を誰もが1つか2つは持ち合わせていますから、勇気を出して尋ねるべきです。買い手と直接話をしたいとどれだけ思ったとしても、私たちにあるのは時間だけですから、適正審査をパスした買い手と効率よく時間を過ごす方がよいのです。
買い手の適正審査をきちんと行ったら、情報を出し惜しみする買い手に対して次はどう対応すればよいでしょう? 日本では相手企業の弱点、失敗、不備、欠点について細かい質問をすれば、完全黙秘に遭うのは確実です。質問できる局面を作ることが必要です。信頼を築くために、我が社の事業内容や他の企業への実績を伝え、この買い手に対してできることを提案します。ためらいがちに、「おそらく御社に対しても同じことができるのではないかと・・」と伝えます。次の発言が重要です。「それが可能かどうか判断するために、いくつか質問させていただいてよろしいでしょうか?」許可をもらわない限りは堂々巡りが関の山です。
たとえ許可をもらったとしても、情報が自由に流れる水門が開かれて仕事ができるという意味ではありません。相手が口にする問題は氷山のほんの一角に過ぎない可能性があるからです。売り込んでくる企業に全体像が明かされることは通常ありません。耳にするのは全体像ではなく、話の一部に過ぎません。困ったものです。ニーズに完全に合致しない解決策を求めて無駄骨を折っているのですから。もちろん、私たちにそのことを知るすべはなく、足りない部分を埋め、問題を解決しようとまい進するだけです。
問題解決が明確に見えていると思うのはまだ早く、買い手がすべてを話してくれているわけではない、 と仮定するのが賢明です。ところが、すぐさま「お助け」モードに突入し、相手が口にした問題に対してソリューションを考えようという誘惑にかられます。適正審査にパスした買い手と約束を取り付けようと躍起になっている時ほどそうです。
十分に深掘りし、相手の話を念入りにチェックするまでは、行動は差し控えた方が無難です。相手からの情報についてフォローアップの質問をすべきです。相手が口にしたいくつかの問題をまとめて、どの問題の優先順位が高いか買い手に説明してもらうのがよいでしょう。買い手にとってさほど価値がない問題の解決に努力しても意味はありません。
私たちが必要としているデータを相手が開示しても安心だと感じ、 私たちが買い手の役に立てるようになるためには、買い手との信頼構築にもう少し時間をかける必要があることを認めなければなりません。日本では最初のミーティングで取引が行われることは奇跡に近く、ほとんどありません。常に何度もミーティングを行うことが必要であり、それを覚悟しなくてはなりません 。高い信頼が築ければ、買い手が実際に直面している問題について正確な情報がもらえます。
買い手の適正審査を行う際は自分に厳しくすることが必要です。1回のミーティングでは買い手は私たちのビジネスを十分に信用せず、買い手の汚点について明かしてはくれないと想定することが必要です。相手からの情報を基に仮説を深掘りし、念入りに確認することです。相手からの情報を疑ってかかることが常に健全な方針といえます。時間をかけて信頼を築き、本当の状況を把握することです。私たちが求めているのは、この買い手と生涯にわたる関係を築くことであり、狙いは1回限りの販売ではなく、リピート注文だからです。常に氷山の一角に過ぎない偽りの情報に目を光らせることが大切です。