「良いプレゼンテーション」は「最高のプレゼンテーション」の敵
話に人間味を与える
私は最近、豊富なビジネス経験を持つ、ある2人のスピーカーのプレゼンテーションを連続して観てこの言葉を思い出しました。良いプレゼンテーションは最高のプレゼンテーションの敵であると。2人とも自信に溢れ、非常に有能でしたが、正直ちょっと退屈でした。たいていの人から見れば「良い出来」だったかもしれませんが、私はもっとレベルの高いプレゼンテーションを期待していました。何が足りなかったのでしょう。この見過ごされていた部分こそが、単なる良いプレゼンテーションではなく最高のプレゼンテーションにするカギなのです。
1人目のスピーカーは原稿を使っていましたが、文章に集中せずに、できるだけ聴き手の方を見るようにしていました。これは簡単なことではありません。内容を読んで記憶したことを、聴き手をじっと見ながら再現しなければなりません。そんなことは楽勝だなんて思った方、ぜひご自分でやってみてください。
果たして原稿は必要だったのでしょうか。実際のところ、必要なかったでしょう。彼は非常に明瞭で経験が十分豊富なので、重要なポイントに沿って話していけたはずです。原稿を覚えるより、聴き手との関係を築くことに時間をかけられるようになるには労力が要ります。話の内容はどれも予想できるものでした。この点も問題です。聴き手は、あなたのような偉い立場の人ならたいてい言いそうなことだと思っていることを耳にした途端に聞くのを止めてしまうものです。 彼はこの上なく自信に溢れた態度で話し、初めてのプレゼンテーションではないことが分かりました。良いプレゼンテーションでしたが最高とは言えませんでした。
2番目のスピーカーはもっと大胆で、原稿を使っていませんでした。こちらの方が、話している間ずっと聴き手とアイ・コンタクトを取って、彼らと関係を築くことにフォーカスできるので、前述の人よりもはるかに良かったです。実際にそうしていたら、の話しです。このスピーカーも、聴き手の中から何人か選んで、1人1人と関係を築くのではなく、例の「十把一絡げ方式」で、聴き手全員に話しかけつつも、実際には誰にも話しかけてはいませんでした。
確かに聴き手は大勢いました。このような場合は、1人を選び、その人を見て直接話しかけるようにします。あなたとあなたが集中しているその人との間には距離がありますから、その人の周りにいる大勢の人たちに、自分たちにも直接話しかけられているような錯覚を与えることができます。そうすることで、多くの聴き手1人1人に対し、あなたが直接話しかけ、今この瞬間、他の人は誰もいないと思わせるような話し方でエンゲージするのです。これは強力な効果がありますから、どのスピーカーもそうするべきだと思うでしょう。
どちらのスピーカーもアイ・コンタクトを使っていましたが、実のところはどちらも本当のアイ・コンタクトではありませんでした。目の前にいる人に向かって話しているように見えても、実際は全員を1つのグループとして扱い、1人1人との親密なつながりを生み出そうということなどしていませんでした。
では、これをどうやって改善したらよいでしょう。簡単です。1人の目を約6秒間まっすぐ見つめるのです。そうすることで、相手はあなたとの個人的なつながりを深く感じるようになります。なぜ6秒間なのでしょう。6秒未満だと、さっと軽く見ているだけととられ、本当に関係を築こうという純粋な気持ちがあるように見えません。それに対し、6秒より長く1人の人をじっと見ると、あなたがまるで殺人鬼であるような不安感を聴き手に抱かせてしまいます。
このスピーカーたちに欠けていたもう1つの要素は、「メッセージのあるエンゲージメント」です。実は今、これを説明するのに適切な言葉がなくて困っています。面白みのないお決まりの話、と決めつけてしまうのはちょっと厳しすぎますね。彼らが一生懸命聴き手に話をしようとしていることは確かですから。問題は、予想していた内容を彼らが話した点であり、期待どおりではあったけれど、それを超えるものではなかったということです。良いプレゼンテーションだけど、最高とは言えませんでした。
どちらの場合も、ストーリーをとおして感情レベルで聴き手とつながろうとする意欲が見られませんでした。この問題は、特に多くのビジネス・スピーカーに見られます。彼らは私たちに向かって話をしますが、エンゲージしておらず、私たちを感動させていないのです。ストーリーテリングは、話に人間味を与えるのに実に効果的です。聞き手は簡単に話の筋を理解し、人物像を思い描くことができ、話し手が伝えようとしているポイントと感情的なつながりを感じるようになります。これが、ビジネス・コミュニケーターとしてあなたを「良い」から「最高」に引き上げるコツなのです。 二人ともプロフェッショナルとしての経験が豊富でしょうから、私たちがすぐに理解し、その良さが分かるような人間味あふれる話を絶対にたくさん持っているはずです。致命的に残念だったのは、それが活かされていなかったことです。そのような話を使えば、スピーチが生き生きとしたものになり、効果的にポイントを伝えられるはずなのに、この場では使われず、ただの宝の持ち腐れとなってしまっていました。なぜでしょう。
彼らは「良い」というレベルに甘んじず、敢えて「最高」を目指して挑戦することができなかったからです。これが、スピーチをする自信を身に付ける上で問題となります。私たちは自分のことを他人よりも仕事が良くできて、完璧にこなすことができるプロフェッショナルだと思っています。このことは真実ではあっても、このようなはしごの下の方の段で自己満足しているようでは、私たちが持つ可能性を十分に発揮してスピーカーとして成功を収めることはできないでしょう。
厳しく聞こえるかもしれませんが、実際、私たちが経験するほとんどのビジネス・プレゼンテーションはくだらないもので、大したレベルでなくても安心してしまっているのかもしれません。しかし、私たちはできるだけ上を目指すべきです。そのためには、聴き手とアイ・コンタクトをとってエンゲージし、彼らに直接話しかけ、そして感情が本当に掻き立てられるような、人間味あふれる話をして楽しませなければなりません。これこそが目指すべき「最高」のスピーカーの姿なのです。