コミュニケーション

BE, DO, GET

トレーニングでお金を無駄にするのは止めましょう

プロフェッショナルとして、ビジネスキャリアをどうやって伸ばしますか?たいていは、学問を基盤にして仕事経験を積み、書籍、文献、ブログやウェブサイトから情報を得たり、指導者から近道を教わったり、頭のいい同僚に説明してもらったり、トレーニングを通じて継続的に​能力開発に励んだりします。トレーニングにおける問題の1つに、提供される内容の効果性が挙げられます。有名大学でのエグゼクティブのトレーニングは、ごく一部の人に限られます。チームの大部分についてはどうしたらよいでしょう。組織全体のレベルを高めるにはどうしたらよいでしょう。

 

企業におけるスキル育成では、社内や社外のトレーナーによる社内トレーニング、一般の公開講座やトレーニングへの参加、オンライン・トレーニングなどが主な手段となっています。オンライン・トレーニングはあまり費用がかからず、簡単にアクセス可能ですが、たいていの場合は受け身的なア​プローチとなり、また、この形式の修了率は10%と、自主的学習としては非常に低い数字となっています。

 

講師の指導によるクラス形式のトレーニングは、未だ企業トレーニングの主流ですが、悲しいことに、圧倒的に非効果的です。チームをトレーニングに送​り込み、人事はただ「修了」のチェックボックスにチェックマークを付けるだけで仕事完了。あとはみな、次に進む。これでは、トレーニングから何を得たと言えるでしょうか?さらに重要な点は、トレーニング受講後に何が実践されたかという点です。トレーニングを受けたことからどんなパフォーマンス面の効果を得られましたか​?ジョン・ワナメーカーは、広告費の半分が金の無駄使いに終わっている事はわかっているが、わからないのはどっちの半分が無駄なのかだ、という名言を遺しています。トレーニングの場合は、それがたった50%であれば、祝杯を上げて喜ぶべきでしょう。

 

た​いていの場合、トレーニングは次の3つのポイントで失敗します。トレーニング受講前の上司と従業員間の打ち合わせは、学習経験を設ける上で重要な介入要素となります。日本では、これが行われることはほとんどないため、従業員は困惑しているか、疑心的、あるいはその両方の状態でトレーニング会場に現れます。2番目の失敗​ポイントは、教室での講師の講義です。この講師の罪に関しては、少し後で詳しく説明します。3番目のポイントはトレーニング受講後のフォローでの見直しと反映です。日本では、たいてい何のフォローも行われません。

 

日本の講師の多くは、あまり高いスキル​を持っていません。一般に、企業独自の社内講師が最も低く、これは彼ら自身が成長する機会を十分に与えられていないからです。彼らは真空状態で仕事をし、彼らをプロフェッショナルとして育成するはずのトレーナー向けのトレーニングは希薄であるというケースがよく見られます。受講生はほぼ強制的に出席しなければならない​し、授業料はたいてい無料なため、熾烈な市場競争にさらされることもありません。組織内の政治が、昇進を決める最大要因であることがよくあります。

 

これに対し、社外トレーナーはライバルがひしめく競争的な市場で活動しています。でも、進出して独自のト​レーニング教室を開設することへの障壁は、基本的にはほぼ存在しません。誰でもさなぎから蝶のように羽立っていけるし、思いつきでトレーナーになれたりします。日本では、トレーナーは講義を行う大学機関型の体制に従う傾向があります。このため、日本国産のトレーニング手法は、「私が話す、あなたは聞く」という、ほぼ一​方通行的なものが一般的です。

 

近代的なインターネット主導の世界では情報へのアクセスは当然のごとく与えられるため、講義主導型の形式は基本的に破たんしています。海外の大学機関はこの点をようやく認識し、授業の提供形式を変えつつあります。日本政府​の官僚も、おそらく2200年頃までにはこうした大学変革のニーズに追いつくでしょうが、ビジネスの世界ではそんなに長くは待てません。現場では、これよりも少し高度な講師がいわゆる双方向型の授業を採り入れて成功している例もあるでしょう。受講者を小さなグループに分けてアイデアを議論してもらう、そしてそこで出さ​れた考えをクラス全体と共有する・・・。まぁ、なんと画期的な方法でしょう。

 

でも、この世で最も素晴らしい意図をもって、彼らなりに最善を尽くしているかもしれませんが、今の時代、それだけでは足りないのです。最も洗練されたアプローチは、「BE + DO + GET」の方程式です。「BE」は、私たちはどんな人間であるかという点に注目します。このタイプのトレーニングでは、一般に提供されるものよりも格段に高度なものが目指されます。

 

ここでは、受講者の感情面の変化を目指します。これは、私たちの思考、意見、信念、感情および洞察を基に自己認識について内観することによって達成されます。受講者が本当に自分自身でブレイクスルーを得られるように彼らの自己発見を促すには、講師のスキルレベルは非常に高度でなければなりません。講義は簡単ですが、このように深いレベルのものは本当に難しく、このため、ほと​んどのトレーナーはできないというのも幾分うなずけます。

 

次の洗練度は、「BE」を自分の「ビジョン」に結び付け始めることで達成されます。はい。ここで、「ビジョン」という言葉を使い始めると警戒心を覚える人がいるのは承知しています。20世紀後半​に大流行となり、かなり使い古されてしまい、今や陳腐と言ってもよい表現となってしまいました。   しかし、「BE」との関連では、「ビジョン」は単に自分自身の中に向上の可能性、比較的近い将来に達成できる状態を見い出すことを意味します。将来、自分がなりたい姿と現在の本当の自分について、二重に内観することは、自分のキャリアの方向性を定め、それに向けて進んで行くための強力な方程式となります。

 

頭の中でこの化学変化が完了したら、何か新しいこと、違うことに取り組む感情的なコミットメントを通じて、「DO」に進むことができます。ここでの目的​は、「自分が行うこと」について行動面の変化を生み出すことです。同じことを同じ方法でし続ければ、当然、同じ結果となります。アインシュタインは、毎回同じことをして違う結果を期待することこそが、狂気の定義であると言っています。もし彼がこの世にいたら、多くの組織において人事が行うトレーニングに関する決定は狂​気の沙汰であると言うでしょう。

 

「行動面の変化」を達成する、と言うのは簡単ですが、受講後の「落ち込み」が始まり、受講者は職場に戻ると、すぐにいつも行ってきたことに戻ってしまいます。現実には、特に日本では、トレーニング受講後に行動面の変化は​ほぼ見られません。では、人事が「修了」のチェックボックスにチェックマークを付ける以外、トレーニングの意味は何なのかと疑問に思うかもしれません。

 

その原因は、トレーニング中、クラスの最強兵器である、受講者の「コンフォート・ゾーン(居心地の良​い領域)」からの脱出を図らなかったために、新しい洞察がまったく、あるいはほとんど実施されていないことにあります。私たちは画期的や革新的なことをしないことでリスクを排除し、コンフォート・ゾーンに居続けることができます。この結果、私たちが受け取るものがすべてデータや情報のダウンロードであったら、たいてい​、片方の耳からもう片方の耳へと単に流れるだけになるでしょう。そこには、「洞察の適用の粘着」というものがないからです。

 

コースの内容と提供方法では、受講者を彼らのコンフォート・ゾーンの外から引き上げ、彼らの行動や他者との関係、コ​ミュニケーション、行動を何かより効果的なものに変化させる手段を与えることが可能でなければなりません。トレーニングの提供方法をよく見直してみてください。このコンフォート・ゾーンの問題の重大性が理解できたら、今、行われているものに大きな不満を感じることでしょう。

 

「GET」とは、結果、影響、リーダーシップ、より深い関係の構築、エンゲージメントの向上といった、「パフォーマンス面の変化」です。重要なことに、知識を頭の中から取り出し、実践と反復を通じて身体に浸透させることは、チームにより効率的で永続的な手法を導入するためのカギとなります。講義​とデータ・ダンプでは、このような結果は得られません。

 

「BE、DO、GET」の概念自体は、御託と講義にあふれる日本では比較的まだ知られていません。しかし、この概念を知るということはスタート地点に立ったに過ぎません。講師が、受講者をより高度​な自己認識へと導き、新しい洞察を実践することを促すことで、このような「感情面の変化」を創出できるようにするには、高度なスキルが必要です。しかし、それを目指すどころか、理解できているトレーニング組織はほとんどありません。

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