デール・カーネギー・コースの始まり

組織がさらなる成長を目指すためには、従業員の人材育成や研修に取り組む必要があります。しかし、大半の企業は昔から従業員のトレーニングに投資せずに、モチベーションの高い人は個人で研修を受け、自己啓発に励んでいました。20世紀初頭には、トレーニングの選択肢はほとんどなく、現在のようなリソースも限られていました。このような環境下で、デール・カーネギーは1912年にトレーニング会社を設立しました。当初の彼は、大学時代に培った人前で自信をもって話すためのコミュニケーションやプレゼンテーションスキルを教えることに注力していました。しかし、偶然にもデールは、トレーニング業界に革命を起こすことになる独自のメソッドを生み出しました。

1912年、デールが初めて、後のデール・カーネギー・コースとなる「話し方教室」を開いた際、予想していたよりも遥かに授業の時間が余ってしまいました。焦った彼は、思いつきで受講生たちに即興で彼らが抱えているビジネスの課題について話してもらいました。受講生たちが熱心に自身の悩みや課題について語るのを目の当たりにしたデールは、理論的なレクチャーではなく、すぐに応用できる知識が、人々からは必要とされているのだと実感したのです。

デール・カーネギー・コース開催当初、デールは授業をいくつのセッションに分けて教えればいいのか、全く考えていませんでした。そのため、彼は一回一回の授業料を受講生からもらっていました。彼は当時を振り返り、“受講生が次回も参加してくれるように毎回価値のあるセッションにする必要があった。”と語っていました。彼は、ニューヨークの西125丁目にある会場主催のYMCAと収益を分け合い、都度払いで夜間授業を運営していました。

実践的なメソッドが学べるデールのプログラムは、受講生の人生を変えるようなもので、今までのトレーニング市場には存在しないものでした。結果、プログラムは大成功を収めました。参加者が少しずつコンフォートゾーンを広げて新しいことに挑戦し、コースを追うごとに自信を持てるようになることが、このプログラムの最大の特徴でした。 コミュニケーションやプレゼンテーションスキルを向上させることは、多くの人にとっては出世につながり、劇的なキャリアアップをもたらしました。 また、デール・カーネギーが提唱した「人間関係の30原則」に基づいて、他人とうまく関係性を築いていく方法を理解することは、画期的なことでした。 そのため、この講座の需要はどんどん高まっていったのです。

1914年、デールはタイムズ・スクエアにオフィスを構え、講師を雇い、パンフレット作成し、自身が生み出したメソッドを形にしました。1912年から1920年にかけては、YMCAで教えていたコースを正式に「カーネギー・コース・イン・エフェクティブ・スピーキング」と題するプログラムにまとめました。

1915年、J.バーグ・エゼンワインと「アート・オブ・パブリック・スピーキング」を執筆。1916年には、デール・カーネギー・コースの最初の講師を養成し、彼らの教材とYMCAの学校で使用するために、「パブリック・スピーキング」全4巻を執筆し、1920年に出版しました。

1922年、デールはYMCAとの契約を終了し、独立しました。ニューヨークを離れ、フィラデルフィア、ボルチモア、ボストンでコースを提供するようになります。

1926年には、「パブリック・スピーキング・アンド・インフルエンシング・メン・イン・ビジネス」（ビジネスマンに影響を与える話し方）という教科書を作成し、プレゼンテーションの授業で使用し始めました。デール・カーネギーは、自身のコースを宣伝するために、受講生の体験談だけでなく、実演会やダイレクトマーケティングのパンフレットを活用していました。この頃から、企業は個人向けの公開講座に加え、従業員向けのカスタマイズされた研修にも申し込むようになったのです。

1930年代には、「デール・カーネギー・コース：効果的な話し方、リーダーシップトレーニングと人間関係」がアメリカの中西部で開始されました。1936年、デール・カーネギーは「人を動かす」を出版し、世界的なベストセラーとなりました。「デール・カーネギー」のブランドと共に、デール・カーネギー・コースは人気博し、その熱は今でも続いています。

1944年11月5日、デール・カーネギーはドロシーと結婚し、同年、キャリアウーマン向けの「ドロシー・カーネギー・コース」を開発しました。1945年、現在のデール・カーネギー・アンド・アソシエイツ社を設立し、1945年5月、シカゴで第1回年次大会を開催しました。参加者は12名で、セールス会議とトレーナーのリフレッシャー（復習会）を兼ねたものでした。1945年から1956年まで、年次大会はすべてシカゴかニューヨークで開催されました。

1947年、彼は研修をサポートするグラジュエート・アシスタント（現在のコーチ）に向けてのマニュアルを出版しました。1948年、「道は開ける」を執筆。1949年、デール・カーネギーは、コースの長さを15回から21回へと実験的に変更し、1956年には14セッションになり、その形は1960年代まで続きました。 1951年、デール・カーネギーは引退し、ドロシー・カーネギーが社長に就任しました。デール・カーネギー・アンド・アソシエイツは、1993年に12週間のデール・カーネギー・コースを正式に発売するまでの数年間、より少ないセッション回数でトレーニングを実践していました。そして 1999年、現在の12週間の「デール・カーネギー・コース」を発表しました。2010年には、「同じ成果をより早く」というクライアントの要望に応え、「成功するためのスキル（Skills For Success）」と名付けられた8週間バージョンがリリースされました。

どんな組織も、自信に満ち溢れ、説得力があり、他者とうまく関係性を築けるような人を必要としています。 デール・カーネギー・コースは、1912年以来、そのような人材を輩出し続け、プログラムの改善を重ねることにより、現在でも高い評価を受けています。皮肉なことに、現代の私たちは皆、いつでもオンラインで会話ができる時代にいながら、深いつながりを築くのが難しいと感じています。人々はソーシャルメディアやインターネットに夢中になり、一人でスマホやパソコンの画面を見ている時間が増えています。そんな中、自信を高め、人間関係とコミュニケーション力を磨き、リーダーシップを発揮することを学んだデール・カーネギー・コースの修了生の多くは、それぞれの組織のリーダーになり、幅広く活躍されています。